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奈川のそばに関わる人々に語っていただく記事シリーズ。それぞれの想いと役割を持ちながら、そばについて伝え続けている人たちに共通していること、
それは「そばが大好き」であると言うこと。
 

「そば語り」第1回目、語り手の皆さん

大好きな郷土で
そばを打つ喜びがある。

手打ちそば職人 池田 善寿さん(奈川そばの会会長)


『そば屋を始めるよりも先に、生まれ育った郷土で飲食店をやって、とにかくみんなに喜んでもらいたかった。』そう語り始めたのは、奈川の旧道沿いでおそばの店「福伝」を営む店主の池田善寿さん。冷たい水で締めたざるそばや、地元の山菜たっぷりアツアツ汁にざるそばを入れて食す奈川名物のとうじそばなど地元産のそば粉だけを使ったそば料理を提供しているお店だ。『もっと大勢の人に知ってもらって、ぜひ食べていただきたい。奈川で育ったソバは本当に美味しい。』と語る池田さんは、地元愛たっぷりにそばを打ち続けている。

「奈川そば」は
最高のおもてなし。

旅館主/料理人 高宮 澄男さん


新奈川温泉で旅館「鳥屋沢」を営む高宮澄男さん。自らそばを打ち宿泊客にふるまう。地域の観光交流部の役員も務める高宮さんは、『奈川の良さは、人が素朴で暖かいこと。それは奈川が古くから街道の宿として、旅人を癒しもてなしてきた歴史があるからです。』と語る。野麦街道と鎌倉街道は、古の時代より商人が行き交い、明治の頃には飛騨高山から大勢の出稼ぎの工女たちが奈川で寒さに震える体を休めたことは、映画にもなった有名な話だ。気候が厳しい信州山中で、奈川はホッと安らげる場所であったに違いない。『そばは小さな田舎でも栽培できて、しかも栄養満点の食材です。心にも体にも奈川そばは最高のおもてなしです。』

奈川の地で
そばを育て守る。

農家/奈川在来そば生産者 奥原公美子さん


『ずっと農業をやってきた、それだけです。』控えめに、時には照れながら話してくれたのは、地元のそば「奈川在来」を作り続けている農家の奥原公美子さん。『牛を飼って、畑でできる作物なら、なんでも作っているよ。』夫婦だけで営む小さな農家ではあるが、あえて苦労の多い在来種を育て守り続けている。『奈川にきてくれた人は、ここのそばは格別に美味しいと言って、みんな喜んでくれる。だから作ってるのかな(笑)。』イノシシの被害や大風で倒れる苦労をしながらも力強くそばを栽培し続け、確実に地域の経済を支えていることには只々敬服する。奥原さんのような素朴で実直な生産者がいるからこそ、奈川そばの美味しさと価値が輝いているのかもしれない。

「奈川在来」を後世に残す
それが私の使命。

農業マネージャー/会社役員 中野 清美さん


ソバという穀物は、荒れた土地でも自生する代わりに自然交配が進みやすく、固有の在来種を守ることは大変な苦労だと聞く。『その苦労を負ってでも、奈川在来そばを守り残していくことが、この地域の暮しを守り発展に繋がると考えています。』地域の産業や観光を支える「株式会社ふるさと奈川」で役員を務める中野清美さんは熱く語る。『甘みがあって香りが良い奈川在来は、厳しい気候でも力強く育ち、風で倒れても再び天に向かって伸びるので「天昇のそば」と呼ばれています。そんな個性あるそばこそ、地域の財産なのです。』今はまさに多様化の時代。一つの個性を大切に育て思いを絶やさない努力は、現代社会の課題でもある。

※ 皆さんの「そば語り」は、これからも『奈川ファンクラブ/徹底ガイド』をはじめ、ふるさと奈川の各Webサイトにて続きを掲載してまいります。
 
 

 
 
 

 

 
奈川のそばに関わる人々に語っていただく記事シリーズ。それぞれの想いと役割を持ちながら、そばについて伝え続けている人たちに共通していること、
それは「そばが大好き」であると言うこと。
 

そばの実/顕微鏡写真・信州大学/井上教授

「そば学」にみる奈川そばの魅力と
奈川在来おいしさの秘密

信州大学 名誉教授・農学博士  井上 直人さん


長年のそば(ソバ/蕎麦)研究から数々の論文を発表し、長野県そば生産の振興に大きく貢献してきた井上教授。2019年には「そば学」を出版し、全国のそば愛好家にも広く知られた存在だ。今回は、奈川そばの魅力とおいしさの理由について、そば語りをしていただいた。


プロフィール

農学博士。信州大学名誉教授、農学部・特任教授(研究)、公立諏訪東京理科大・客員教授。1953年(昭和28年)、東京都に生まれる。帯広畜産大学大学院卒業後、1981年の長野県の農業試験場の研究員を振り出しに、京都大学農学部講師、助教授を経て、2002年に信州大学教授となる。ソバをはじめとした穀物の生理生態、食品科学、育種、土壌学の研究教育に専念してきた。主にアジアや日本の山岳地帯を中心に有用植物資源探索と調査を行い、その成果を金沢大学教育学部大学院、信州大学、岐阜大学、九州大学、岡山大学の各農学系大学院の教育に生かしてきた。日本草地学会賞、日本作物学会賞(論文)を受賞。
現在、日本そば大学学長(中日本)や地元企業などの顧問を務めながら、ソバや土壌の研究・普及活動に取り組む。最近は、「伊那の在来品種の復興による地域振興」や、「そば粒を一粒ごとに非破壊分析して選別する機器」および「水萌えそば(無製粉冷水浸漬胴搗き製法)」などのまったく新しいソバ・そばの選別・製造加工法に関する技術を開発し、世界最高品質のそばの製造をめざしている。
所属学会
Asian crop science association/International buckwheat risearch association/雑穀研究会


教授の著書「そば学」は、雑学としての見地ではなく、食品科学をはじめ農学・民俗学・心理学・工学など様々な視点を体系的にまとめ上げた、まさにそば学としての集大成だ。
今回は長年の研究成果と共に、そば学の観点から見た奈川そばの特性について伺った。
 

 

奈川のそばが美味しい理由 (1)

『奈川は在来種のそば(蕎麦)にとって、タネがチベット東部の山岳地から日本に渡ってきたというルーツの面で、山間高地であるという地形や冷涼な気候の面で、また街道の要所として、おもてなし文化が根付いている地勢や文化的な面、それら全てが重なって、理想的な生育場所であると思います。』そば研究の第一人者である井上教授は、奈川そばについて研究者の視点で一気に語り始めた。 
 
奈川には「奈川在来」という、この地域に280年以上も前(文献参考)から受け継がれてきた在来種そばがある。'98年には台風被害により一度栽培が途絶えてしまったが、地域の人々の努力により復活。2006年からは栽培面積を増やす取り組みもしている。小粒で風味豊かで奥深い味わいがあるのが、この奈川在来の特徴だ。
 


 

● 在来そばと一般品種そばの違い。

そばの品質と味の向上、収穫量の安定化など、これまで様々に品種改良が行われてきた。全国各地の寒冷地全般で栽培され、奈川でも栽培している「キタワセ」も元々は北海道がルーツのそばだ。長野県では「信濃1号」品種が開発され各地で栽培されている。
 
在来種はその土地にしかない固有のそばであるが、全般に言えることは、在来種は落実が早いため小粒で風味が濃い傾向にある。奈川在来もその例外ではなく小粒で、全国各地の在来そばと比べても、甘みと香りの豊かさに加え、腰のある適度な咬みごたえと口あたりの良さに定評があり、新そばのシーズンになると奈川在来を求めるそばファンも多い。
 
 

そば学・資料3-9 タンパク質とアミロース含有量の地理的分布より(4倍体品種を用いた全国連絡試験を化学分析、Inoue et al.,2004)

 
 

● 奈川在来の風味は甘みと適度な弾力が特徴。

『奈川在来の特徴の一つは、実が小ぶりでタンパク質の成分量に比べてアミロースが少ない。これは適度な硬さ(弾力や咬みごたえ)がありながら、同時に粘性と柔らかさも相持っているということです。』一般の穀物はタンパク質を増やして収穫量を上げるために、日照の良い環境で生産することが多いが、同時にアミロースも増えてしまい食感や風味を低下させてしまうそうだ。しかし「そば」はイネ科の植物ではなくタデ科に属す植物として、タンパク質が増えるとアミロースが減少する相関関係にあることや、冷涼で日照時間が短い地域で育つそばはタンパク質が多くて味が良く、アミロースも適度に多くて麺ばなれ(麺どうしが付かない)が良い。そのことが風味を濃くし、食感を損なわない関係をつくりだしているのだと言う。 
 

 
続けて井上教授はこう教えてくれた。『良質なタンパク質が程よくあるということが、奈川在来がつなぎを入れなくても成形(そば打ち、そば切)しやすいという特徴にも繋がります。西日本のそばは、同じタンパク質の量でもアミロースが多い傾向にあり、つなぎを入れないとそば打ちをした時や茹でた時にそばが千切れやすい一方、信州の特に高地で栽培されるそばは、細い麺に仕上げても切れてしまうことが少ない。もちろんそば打ちする人の腕前にもよりますが(笑)。』

 


 
『奈川そば、特に奈川在来の風味は甘みと適度な弾力が特徴です。数多いそばの品種の中でも甘みと香りが高いこと、そして適度な弾力によって細い麺にしても切れない粘度の高さがあります。これまで食べた人の感覚だけでわかっていたことですが、これらは分析の結果でも数値として現れています。』
 

そば学・資料3-21より(井上、2018長野県伊那市全域と有名産地産の品質の比較)

 

 


奈川のそばが美味しい理由 (2)

そばの美味しさには神秘的な背景がある。

『そばの美味しさには、食物分析のような数値だけでは当てはまらない何か別の背景のような要素がたくさんあります。例えば、そば道のような精神性や文化を楽しむと言うような背景と、もう一つ陰陽五行思想にある「氣」としての背景があります。江戸時代にはファストフードとして流行ったのも、食べやすく調理提供がしやすいという条件だけでなく、独特の背景があったからではないでしょうか。
そばは「水氣」に属する食べ物として、水との関係性が高いわけですが、そば切(麺状にして食べる文化)が定着した背景にも、この陰陽五行が関わっていると思います。道具には木を使い、調理には金と火を用いる・・それに関するお話はまたの機会にしましょう。何れにしても、そばを単なる料理として捉えるだけでなく、和食文化の中にあって「そば道」のような別格の扱いをする人が多いことにも、そこに何か理由があるわけです。』そば道は奥が深そうだ。
 

● 愉しく、驚きがあることも美味しさの要素。

奈川独特の食べ方をする「とうじそば」も、独特の個性があるそば料理だ。健康を崩しやすい季節の変わり目や、生活の中での祝い事などの節目に振る舞われ、地域の人にとっては大変なご馳走だ。『出汁の効いた甘い香りの大鍋で、旬の山菜やきのこ、野菜を煮立てた中に小割りしたそばをとうじかごに入れ、温めて具と一緒に食べるわけですが、そばはそば切をして茹で、一旦冷水で締めたざるそばをわざわざもう一度温めて食べる。そこにも「水氣」としての捉え方、陰陽五行の「木・火・土・金・水」を関係付けて、体に必要な要素をしっかり摂ることと、大勢で愉しく食したり、また驚きがあることで美味しさを高めたり、旅人に心身共に喜んでもらうといった精神文化があるのです。』
 

奈川名物のとうじそば


 

奈川のそばが美味しい理由 (3)

そばのルーツDNA・地域環境・背景・人のコラボレーションがベストマッチング。

『在来そばは、香り高い風味や濃厚さなどの個性があるわけですが、その個性のタネを受け継ぎ育てる人がいなければ、在来種のような固有のそばは絶えてしまっていたでしょう。奈川には、奈川在来を守り作り続けている農家、つまり受け継ごうとする「人」がいてこそ、さらには、そばを食する文化・ふるまう食文化が続いているからこそ、自然的な環境条件と相まって今でも美味しい在来そばを食することができるのです。そばの個性、地形と気候などの自然環境、人の営みや文化がコラボレーションして、初めて美味しいそばが食べられると言っても過言ではありません。』
どうやら奈川は、様々な条件がベストマッチングしている地域であるらしい。
 

【編集後記】
井上教授への取材を終えて思ったのは、在来そばはこれからどうなっていくのか・・ということだった。そばに限らず、持続可能な社会を作る根底にあるのは、心から楽しむ精神とそれを続ける工夫、人々の健康への渇望、そして他人への思いやりではないだろうか。それが何事も継続をする原動力なのであれば、きっと「そば」と「人」とのコラボレーションはこれからも続いてゆくに違いない。
(記事:奈川デザインプロジェクト・取材制作チーム)

 
 
 

 

 
奈川のそばに関わる人々に語っていただく記事シリーズ。今回は「奈川そばの概要」について、井上教授の語りと地域の資料をもとに、記者がまとめてみた。
 

奈川地域のソバ畑

奈川在来と奈川の地形との大きな関係

奈川在来のような純粋な在来種を残していくためには苦労が多い。ソバという植物は生命力の強さから自然交配が進みやすく、つまり近くの畑に別の種類があると雑種が育ちやすいからだ。
その点、奈川の山間地としての地形が多いに種の保存に役立っている。冷涼な気候であるばかりではなく、周りを山に囲まれて他の地域と隔絶されていることに加え、地域内でも小さな畑が丘ごとに点在していて、それぞれのソバ畑が離れていることも、種の保存には恵まれた環境なのである。

奈川地域そば畑の分布図

 

奈川上空より入山方向を眺める(クリックで拡大します)


 
奈川地域の地勢・気候について、もう少し詳しいデータを掲示しておく。奈川は信州(長野県)の中部西に位置して岐阜県に接している。北陸〜飛騨高山と甲州〜江戸方面を結ぶ街道交通の要所として、古くから人や荷物の往来があるものの、平地が少なく河川も急流が多いことから、大きな集落には発展しなかった地域だ。
 
空撮写真でもお判りのように、山に囲まれながらも、それぞれの畑が水はけの良い丘の上に点在しているのが奈川の特徴だ。ただ、生産者にとっては畑に登り降りしなければならないことに苦労も多いことであろう。
 

気温と雨量の関係。

この場所は、在来そばにとって絶好の育成場。

標高1000〜1400メートルの場所が地域のほとんどを占め、夏は冷涼で冬の寒さは厳しく、雲や霧の発生が多いことから、日照時間も平均的ではあるが決して多い方ではない。これはそばのルーツでもある東チベットの気候ともよく似ているのは、前記井上教授の語りの通りだ。そんなそばにとって最適な場所であるからこそ、古くから風味豊かな在来のそばを育てることができたのである。
 
 

奈川の「霧」がそばの育成を助ける。

右のグラフからも奈川地域は全体に冷涼で、そばの育成期間中(8月)は、雨が少ないことがわかる。夏そばも同様に5月の雨量は少ない。その代わりに内陸特有の気温が下がる朝方にしばしば霧が発生することで、適度にそばの水分補給をしている。そばは根だけでなく葉っぱからも水分を吸収する特性があることから、霧が美味しいそばを育てる糧となっている。
 

高地特有の霧が、そばを最適に育てる。(奈川)

奈川の年間の気温と平均降水量のデータ。下は旧来の農事カレンダー(古くは鎌倉時代〜昭和時代まで続いた農業基盤となった暦です。)

奈川の歴史文化とそばの関係

奈川が古くから街道文化があった点も見逃せない。山奥の集落で旅人に食事を提供するとき、栄養豊富なそばはホスピタリティーに最善な食事であったに違いない。
そばは栄養素も豊富に含まれていて、アミノ酸スコアのバランスが良いことで知られている。健康食品であることについては、今後掲載していく予定だ。
 
(栄養の話と街道のお話は「そば語り/vol.3」以降で掲載予定です。ご期待ください。)
 

野麦街道は古くから旅人が往き交った。(写真は野麦峠祭りの様子)

 

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